風鈴製作者 空、その底辺でボソリ…(4年目その305)

『世界の理想王にでもならない限り、人の顔を見て、自分を見せて生きる以外にない』


 飛影はそんなこと言わない。(挨拶)


 朝からしとしと雨。気温も低くはなく、湿度が高いため、まったく寒くはない。
 今さら書くまでもなくこの国は島国であり、それゆえに外国からの侵攻を受けづらく、内部の些細な諍いを除けば大きな異変もなく世界最古の王家を維持し続けている特異な国だ。そのためか排他的で、見知らぬ人間との付き合い方に不得手な傾向がある反面、身近な人間とは察しと思いやりをもって強固な交友を維持することに長けている。言わばムラ社会主義的な傾向が強いのである。対して内陸国家の場合、国境線が地続きで他国の侵攻を受けやすく、同時に人の出入りも多く、必然的に見知らぬ人間との付き合い方を学ばざるを得ない環境だ。
 こういったことはほんの数世代程度の生まれや環境に左右されるものではなく、長い時を経て、そうした根底的な常識として染み付いたものだ。意識的に教育されるようなことではなく、自然と伝わっていく“民族性”なのである。
 この国はよく、外交が下手だとか、身内主義だ、とか言われるが、やはりそういう歴史的な民族性に裏打ちされているのは間違いない。ただ、そういったやり方がグローバル化した経済形態には合わないために変革を求められているのである。


 あまり親しくない人間同士のファーストコンタクトで、まず人は何を見るかといえば、それは相手の所属や肩書き、資産などではなく、“人間”そのものを見るのである。逆に言えば、知り合うためにはまず自身の“人間”としての様を見せなくてはならない。当たり前のことだが、これができないこの国の人間は多い。自己紹介をすることが自身を見せることではない。自らを表現することがまず第一歩なのだ。